はる なみ みらい

雑音のない音の感じ。技術のみらいを考えたい

コンピュータによる王権

最初に断ると、歴史は素人なので、結構適当なことを言ってしまうのかもしれません。
その知識で書いてしまうと、
・中世では王の権力は神によって与えられたもの、とされていた
・印刷技術の発明によって宗教改革が起こり、教会の権威が相対的に低下
・王の権力はあくまで民衆の支持によってのみ正当化されたもの、との認識に変化
・さらに、民衆の力がより強くなり、議会が権力の中心となり、王は象徴的存在になった。

そんな流れです。

体制としての民主主義の最大の利点は、国民の投票結果が反映されているため、正当性が自明であることですが、
欠点は、さまざまな意見があるため、意見の集約に時間を要してしまったり、政権が不安定化しやすいこと、だといえるでしょう。

民主主義国家が生まれた時代は、国家間競争の時代であり、現実に王権主義と戦える体制が要求されていた訳で、制度設計者にとっては、政治的安定性と正当性の両立という観点でいろいろ苦戦したはずです。
最初から良い答えが分かるわけないので、進化論的に、いち早く解を見つけた国家が競争に勝ち抜き、現代のスタンダードとなっているのだと思います。

ここで、人間には寿命があり、世代交代の中ですべての経験を引き継いでいくことができない、という現実があります。その作用として、時間の流れとともに、法律制定時の理念のようなものは失われ、ただのルールとなり、違反でペナルティを受ける限界まで攻めるなど、仕組みがハックされていくながれとなります。
もちろん制度設計者は、時代の変化に合わせて制度を改定する仕組みも仕込んで設計していたのですが、世代交代によって過去の経験の大半が失われてしまう問題は如何ともしがたいものです。

いきなり中世の王の話に戻りますが、そもそも神が現世の王に権力を与える必要はあまりなくて、考えてみると、民衆が王に世襲権力を与えたという事実を覆い隠す仕組みだったのではないかと思えてきます。
その時代は世襲で運営した方が競争に有利だったため、民衆としてもそれを望んで体制がスタートしたけど、それをうまく説明する手段として神が利用された、という説です。


 さて、現代ですが、グローバルな競争激化の中で、より安定した政権が求められるようになってきていますし、情報環境の主体が、大手メディアから、検索技術企業が主役になってしまったなど、以前の時代のノウハウが通用しなくなっているのです。
 本来は、その状況でも正当性を失わないように制度の修正を進めていくべきであるのですが、以前の制度設計の経験が引き継がれていないですし、現在の仕組みを最大限ハックした集団が権力を持っている政府に制度設計を決める権限があるため、そのような方向の制度修正は期待できないでしょう。
 この解決するためには、政府を運営するメンバー(いわゆる議会を含めて)と制度設計者を分離できれば良いのですが、現状は困難です。選挙で選べば、議会とほとんど同じようなメンバーになるし、王などが指名する形にすると、正当性を担保する仕組みがない。
 この問題を、情報技術で何かクリアできないか、それが実は今日の本題です。
制度設計者の経験を引き継いだまま、現代の情報も理解し、制度設計ができる主体があればいいのです。
言ってしまえば、一人の人間の知識をすべてコンピュータ上に再現できる仕組みと、現在何が起こっているのかをコンピュータが理解できる形に変換できる技術があれば、技術面では可能だと思います。


 結局は、受け入れる側の問題で、コンピュータが重大な決定をすることへの抵抗があると考えられます。ただ、あくまでコンピュータが検討するのは、制度設計のみで、実際の運営には関与しない形ですし、前時代からの経験を引きついでいるコンピュータは、現実の人間の知識量を簡単に凌駕しますので、結構おとなしく従う人は多いはずです。
 さらに、コンピュータによる制度設計により、国家間競争に勝ち抜くことができてしまえば、ほかの国家も類似制度を採り入れるスタンダードになってしまう可能性もあります。
 ただ、コンピュータの判定結果をもとに選挙制度を運営するとすると、どうしてそういう制度設計になったのかを、人間の側が理解できない問題があります。さらに、何世代か進んだら、理解できないことがどうして問題であるかもわからなくなる、というおまけもつきます。
途中に述べた通り、これは神に与えられた王の権力という概念と非常に似通ってきます。
 
 こんな風にコンピュータが決めた選挙制度に従って、人々が権力者を選んで政府を運営していく、という形が、現代の環境に対する一つの解であると思います。ただ、コンピュータが作為的に権力者を選ぶこともできてしまうリスクもあるので、このコンピュータの実現にはいろいろ検討が必要そうです。